ニューカッスル・ダラム英語勉強会

イングランドのニューカッスル大学およびダラム大学に留学に来ている日本人達による英語学習の一篇。

『リア王』劇評の訳出:someについて

The Guardianの劇評から。今回は、シェイクスピアの『リア王』です。四代悲劇の一つです。筆者はMichael Billington。相変わらず難しい単語をチョイスします。読ませますね。

パッと見で難しい単語と構文が入り乱れています。今回は(現実逃避をしたくて)、久しぶりに英文和訳に挑戦します。学部と日本の大学院時代に通訳/翻訳演習を受けた時に、こんな感じの文をたくさん訳出させられていました。おかげで少し力が付いたなと思います。

King Lear - review | Stage | The Guardian

〈原文〉
It starts impressively. Lear's division of his kingdom is not some idle whim but a huge public ceremony executed by a man who looks very much a military dictator. A vast crowd of extras line the room which only adds to Lear's sense of outrage at the thwarting of his will by the disobliging Cordelia. As if to emphasise his fury, Russell Beale's bullet-headed Lear humiliates Cordelia by forcing her to stand on a chair like a naughty schoolgirl before she is rescued by the French king. Yet although the scene has an epic quality, it is filled with human detail. Adrian Scarborough's Fool, who squats downstage on the Japanese-style hanamichi (or runway) that extends into the stalls, rushes up to lovingly embrace Cordelia before she is bundled off.

〈拙訳〉
[劇の]はじまりには驚かされる。リア王の退位は、いつも上演される時のお決まりになっているような、気まぐれから来るものではない。それは、セレモニーにて軍の指揮官のような人から焚き付けられて起こるのだ。たくさんの世話人が立ち並ぶ部屋で使用されるのは、リア王の反抗的な娘コーデリアに対する怒りが無様にも妨げられる場面のみだけだ。ラッセル・ビール演じる頑固なリア王は、憤りを強調するかのように、フランス王がコーデリアを助けにくるまで、だらしのない学生がするみたいに椅子に立っているよう命じ、コーデリアのプライドを傷つける。この場面は他の上演には見られないような演出ではあるが、実に人間味に溢れてもいる。舞台前方から前の方の席まで伸びる日本の「花道」(ランナウェイ)に座っている、エイドリアン・スカーボローの演じる道化は、コーデリアが追放される前に彼女の下へ駆け込み愛する人にするように抱きしめるのだ。

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久しぶりに、英日をすると、不自然な箇所が目立ちますね。まあ、初見はこんなもんでしょう。さて、少し英語表現を拾います。どこも面白いのですが、意外に困るのがsomeの訳出。「いくつか」とかそういった意味では使われていない。むしろちょっと皮肉っぽく、強調しているようにも思えます。

辞書を見てみると、たとえば『リーダーズ英和』の第四義には「相当な、かなりの、ちょっとした」や「[通例文頭に用いて](皮肉)たいして〜ではない」と載っています。特に後者はOxford Dictionary of Englishにもあるように“used ironically to express disapproval or disbelief”とあります。でもどっちも微妙にしっくり来ない。

そこで大切なのは、文脈を知ることです。この場合の文脈とは、The Guardianの読者層と『リア王』のあらすじ。The Guardianはいわゆるブロードシート。いわゆる大卒や大学院卒のintellectualをターゲットにしている。そしてこのような劇評を読むのは、やっぱり演劇好きが多い。そんなわけで記事の読者は、少なからずとも『リア王』の演出やあらすじを知っているのではないか、と予想することができます。思い返せば『リア王』は高齢とされることが多いのだけど明確な理由はなく退位します。それが今回、全く違う理由で退位されているのですから、拙訳のように導きだされます。強引な訳ですが、今のところこれで良いかな、と思います。

そんな感じでsomeの訳は意外に難しいのです。

Yusuke